「修道院に行ってみたい」
ふと思うことはありませんか?
何か違う考え方がありそうだ。なんだか心が休まりそう。
今周りにいる人とは違う、修道士、修道女ってどんな暮らしをしているんだろう。
海の向こうは?
修道院の有名どころはモン・サン・ミッシェル、海に浮かぶ孤島にそびえたつ修道院。(孤島ではない、地続きになってもうかなり経ちますが)そこには修道士、修道女あわせて現在12名が生活をしています。
フランス全体で、大小合わせて82の修道院が今も修道士、修道女の暮らしの場となっています。中はどうなっているのでしょうか。その暮らしは? 多少なりとも体験はできるのでしょうか。 結論を言えば、ビジターとして経験することが可能な修道院もあります。敬虔なクリスチャンなら中で生活できる可能性もあります。味見をすることも可能。とにかく少し違う世界をのぞいてみませんか。
まず、中の人として修道院に入るには、いったいどうしたらいいのでしょう。
Contents
修道院に入るには ~隠者?修道院生活?~
第一に、信仰があること。まぎれもないキリス教徒であることが問われます。洗礼を受けていることが問われます。
キリスト教徒の家に生まれて、歩かないうちから洗礼を受けるのが一番の早道。でも、それって本人の自覚次第じゃない? と、カトリック伝統から離れた世代は子供の自由に任せます。受け入れる側の教会は、一層本人の意思を尊重します。
教会に通うのも、洗礼を受けると決めるのも、当人次第。で、小学生になったころからクリスチャンになると決めた友人は言っていました。「キリスト教のこと勉強しないといけないし、ずっと教会の行事に参加しないといけなかったし、色々大変だったわ。生まれたときにちゃっちゃとやっておいてくれたらよかったのに」
いろんなケースがあるみたいです。
また、回教徒だけれど、キリスト教徒になりたい、修道院に入りたい、と言う方もいます。
皆様、身近に縁のある教会に相談されています。
信仰はしたいけれど独居がいい、という方々の向かう先にあるのは、「隠者」の生活。
古くは、修道院より先に存在し、砂漠など、人里離れた地で神に祈り、質素に暮らしていたそうです。相談に訪れる人が来たりして、なかなか独りにはなれなかったという逸話もあります。それも修行のひとつなのでしょうか。
現在は司祭や修道会に属するようになっています。修道院の敷地内や外に暮らし、祈り、奉仕、作業とそれぞれのスタイルで信仰にいそしむ傾向にあります。
シスター、修道士、年齢制限はある?
開始年齢制限を、30代までと前提にしている修道院もあります、が、これも結局臨機応変です。
個人的にどれだけつながりがあるか、どれだけ熱心に信仰しているかによって受け入れは変わってくる模様です。現在フランスで、修道院は82あります。宗派を問えばもっと門戸はせばまりますが、信仰の意志があればまず連絡をつけることは可能だと思います。
例えば、60歳、70歳で修道士、修道女になりたいとご夫婦で思い立たれたら、まずご自分の通う教会や修道院に申し出ておられます。
離婚をしたけれどだめなのか、カトリックではないけれどどうなのか、すべてまず、話し合いからはじまります。
受け入れ先が決まって、修道院に足を踏み入れらてからも、その先続けていけるかどうかは、年月をかけて修練していかないとわからないことなのです。
中世では、裕福な家の娘が持参金を持って修道院に入れられた風潮もありました。長女ではない娘が、教育とこれからの生活の場として修道院に入れられることが多かったのです。この時期に比べれば、年の差なんてなんのその。思い立ったがトライ時、修道院に行ってもませんか?
修道院によっては、心を休めたいビジターを受け入れてくれるところもあります。祈りたい時に祈り、ミサに参加し、ということも可能です。ご縁がある教会に、尋ねてみてかいかがですか。
修道院、シスターの一日
たとえば、あるベネディクト会の修道院。
早課 :3:00 明け方 祈り
一時課:6:00 ここに聖書の研究、祈り ミサ、食事
三時課:9:00 作業、奉仕
六時課:正午 祈り 食事
九時課:15:00 作業、奉仕
晩課:18:00 食事 祈り 自由時間
晩堂課:21:00 祈り 就寝
夜半課:0:00
日曜日は朝が一時間ほど遅く始まったりもします。
昼間の作業以外は、黙想、祈り、ミサ、聖書を読むことが中心に生活が送られています。
作業、奉仕は教会それぞれですが、幼稚園をひらいたり、学校教育を行っているところもあります。慈善事業として食事を提供しているところなどもあります。
また、自給自足の修道院では、農作業、料理、食物加工も欠かせません。質素倹約、勤勉、祈り、修道院では自分の財産を持たず、日々の糧を分けあって、神のために祈って暮らします。
中世ヨーロッパの食事
食事は質素、野菜や豆が中心、魚OK、肉?というのが一般的ですが、食えや飲めやと飽食に染まった修道院もあったと聞きます。聖職者の位が高ければ肉もだされ、司教が飲めるワインは上級だったとも伝えられています。
また、贅沢という意味からではなく、苦行を伴う修道士なら、肉を食べずには生き抜けなかったという場合もあったでしょう。冬は火の気のない石造りの建物、厳密にどこも菜食主義、というのは難しい話だったと思います。
フランスでは基本、昼と夜の一日二食、昼はパンとポタージュ、豆類に野菜、たまに果物か卵、チーズかワインがつきました。夕食は昼の残り。信仰上一日一食に限られる時もありましたが、夕方のつまみ食いは許されることが多かったようです。
修道院には限らず、一般でも、魚を特別視する習慣は今も残っています。「金曜日は魚の日」とよく言われますし、学校給食も魚が出てくることが多いです。特に聖金曜日(キリストの受難の日)は魚しか食べない、とする習慣が根強く残いて、前日の木曜日には魚が飛ぶように売れていきます。
修道院のお仕事
修道院の一日のところでも少し触れたのですが、修道院内の仕事には、中の仕事と外の仕事、があります。
修道院内で生活をしていくための料理、洗濯、裁縫、畑仕事、修道士、修道女はそれぞれ役割を分担します。渉外、庶務から看護、介護もあれば鐘つき、門番も仕事です。
外部に出る仕事ならば、教育、食事提供、バザー、伝道といった活動も必要です。
過去の大きな活動として今も伝えられているのは、パリや地方での施療院活動です。
16世紀ごろ、国の手が回りきらなかった貧しい病人の看護に、中心となって動いていたのは修道院でした。救貧活動に、病人の介護に、特に修道女の活躍は目覚ましいものがありました。
現在も、歴史的建造物として数多く残っています。フランス語で“Hôtel-Dieu”直訳、神の館、という名の建物を見つけたら、そこで修道女が活躍したのだとお思いください。ブルゴーニュ地方、ボーヌの歴史的建築物には、資料が展示されています。
修道院とビール 、ワインにチーズにお菓子など
修道院は石造りで、地下もひんやりと乾燥しています。
ワインやチーズを作るのに、一定温度を保ちやすい環境にあります。
中世の時代などは冷蔵庫などない時代。「食料の保存」は真剣な課題。発酵食品、保存食品は重要な命綱でした。
川や井戸からとれる生水は雑菌が多く、不衛生でした。よって飲み物は発酵したワインや、最初に煮立てて作成されるビールが欠かせません。乳製品も、冷暗所で熟成させるチーズは大切な食糧元だったのです。
ブドウ畑の合う土壌と気候の場所にはワインが、麦が育つ土地にはビールが、そして牛が住める場所にはチーズ、乳製品が、それぞれ発展していきました。
ギリシャ、イタリア、フランスと南のほうではワインが多く、来たに上がっていくほどビールが増えていくのは、自然の摂理、だったのですね。
こういったアルコール飲料や乳製品は、今も市場に見られます。いかにも修道院で作られました、といった包装で、修道院から出荷されています。
また、ジャムやクッキー、ビスキュイ、はちみつなども生産、販売しているところも多いです。素朴な手作りで一つ一つ試したくなります。
機会があれば是非どうぞ!
バーチャル修道院体験、映画、本
映画:実写
『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』
アルプス山脈にあるカルトジオ会の修道院で、16年交渉した末に撮影許可がおりた映画です。
2002年から2003年にかけての修道士の日常が記されています。音楽は聖歌のみ。コメントもありません。ひたすら祈り、聖書を読み、生活を送る姿が続きます。
おだやかな日差しの中、外で談笑する場面もあり、ああこの人たちも人間なのだなと少し安心したりするくらい、とても静かな映画です。
映画:フィクション
修道院や修道士、修道女が出てくるものは山ほどありますが、あえて落ち着いたもの、中世的なものをいくつかあげてみます。
『汚れなき悪戯』原題直訳:(マルセリーノ・パンとワイン)スペインの白黒映画、(1954年)
中世の伝説を基に作成された物語で、修道院の前に捨て子があった、ではじまります。
修道士たちは大騒ぎします。誰がやった、どこに養子に出そう!うまく行き先が決まらないうちに情もうつり、修道士たちの仕事に一つに、赤ん坊の養育が加わります。
のちに、1999年にイタリアでリメイク、それ以降2000年にアニメになったり、2010年にメキシコでリメイクされたりしています。イエス・キリストと幼子の、奇跡の交流の物語です。
『薔薇の名前』 映画、ショーンコネリー主演。2時間12分。
フランス、イタリア、西ドイツ制作。1986年公開。
『薔薇の名前』 TVシリーズ 55分×8回 ドイツ、イタリア共同制作、2019年放映。
双方、修道士生活は垣間見れます。時代考証や雰囲気は手堅いです。内容は、連続殺人事件。修道院内で起こる修道士たちの死体を、ホームズまがいの修道士と、その助手が調査していきます。また、魔女狩り、宗教間の争いも入り、静かな気持ちにはなれません。けれど、キリスト教、修道院を描いた作品で、逃せないものの一つです。
ここまで時代が進むと、製作者の中にも「原作は音声で聞きました」とか言っている人もいました。中世だけれど今どきの映像技術。
ちなみに映画は17歳以上から、ドラマは13歳以上からと年齢制限あります。
ちなみに原作小説は、映像以上に激しいです。
本:
「修道士カドフェル」 エリス・ピーターズ著。
12世紀のイングランド、修道院が舞台のミステリ小説です。
元船乗り、十字軍の出兵した経歴も持つカドフェルは、今は修道院で暮らしてます。
薬草園が守備範囲。そんな修道士が殺人事件に立ち向かいます。
薔薇の名前と比べると、はるかに牧歌的な小説です。この雰囲気に触れてほしいです。
長編が面倒な場合は、短編集、「修道士カドフェルの出現」からはじめてもよし。
ミステリと中世が好きな方にもおすすめです。
修道院の一日の生活 まとめ
中世を中心に西洋の修道院について述べさして頂きました。
広い世界のさまざまな宗派、うちの修道院と違う、というお話があれば、是非お聞かせいただきたいです。
ヨーロッパで、時代物の建物の、中をのぞくとステンドグラスの向こうに、回廊が広がっていた。そんな体験を皆さんと分かちあえればうれしいです。